晩秋の神室山(平成23年11月12日)

 晩秋の神室山は紅葉も終わったが岳人で賑わっていた。白壁が美しい金山住宅と杉の美林を抜け神室ダムまでは濃いガスだった。駐車場でパッキングしていた4人のパーティと天気予報を確認したが、晴れとの予想どおりに車道を歩くとガスがかぶさる低山の向こうには青空が覗いていた。金山川沿いを急ぎ足で歩くが10時過ぎには登山口に着く。沢の音と落ち葉を踏む音に後押しされながら出遅れを取り戻す。山道の霧もはれ徒渉する頃には晴天の下汗ばんで来た。九十九折りを登ると麓は雲に隠れた。
 雲海は麓の里から遠く地平線まで地上を隠してしまった。僕は何度も振り返りながらサイコロのような山頂小屋を目指した。
 神室山頂を目指すが何故か遠い。麓の雲海と幾重にも重なる尾根に見とれてしまいなかなか上昇できない。ようやく前神室山からの山道が見えて来ると神室本山もやせ尾根の向こうから僕を呼んでいる。
 西ノ又沢コースからの急な登りを左に見て足場の悪いエッジの上をバランスをとりながら一端下る。切れ落ちた東面のヘリに尾根道が僅かに確認できる。風が吹けば一気に奈落に沈むだろう。もう回りを見る余裕もない。足下だけを見つめ最後の上昇。山頂。自分一人。7月にガスのなか登った根ノ崎沢からの稜線。小又山、火打岳への主稜線。台山からの尾根を合わせ交わる点に三角点はあった。東の山々を見ていると小屋から熟年の御夫婦がいらした。
 「この時期の山もいいでしょう」とご夫人。
僕は
 「この時期が一番好きです」と答える。
それからご夫人から、東方は虎毛山、栗駒山、焼石岳と教えて頂いた。焼石岳の向こうは早池峰山だろう。山行も夢は広がる。
 秋の日は短い。心なしか雲海が尾根に迫って来るように見えた。抜ける晴天も急に雪に変わるかも。急ぎ足で踏み跡を戻る。すっかり葉を落とした枝は山人を絡めとるようにうねる。強い獣の匂いと組になって霊山の生け贄にと企んでいるようだ。僕はまたガスに包まれて行き場を失うかもしれない。

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