「仮往生伝試文」を読む(13) ーいま暫くは人間にー

 出典は探せない。自分が往生する夢が疫病のように流行し、本当に往生してしまった。それから、女房の枕元に現れて、いま暫くは人の間に住んで、精進を加えて、極楽に生まれたい、と告げる。往生してから、往生を願う。「それまでのほうがかえって往生していたように、今では思われてな・・・・・・。」(176頁)
 自分の往生の夢を見た人が訪ねて来た際に、日頃の行いを聞かれるが、当然、たいした心当たりはない。好き嫌いなく食べる。あれば、分けてやることもある、とか答える。まったく往生を願ってもいなかったのに、そう言われて、本当に往生してしまった。でも、往生している気にはなれないから、これから精進して往生したい。そのために人の間に戻る。往生したい気持ちに駆り立てられてから思い直し、そうは願ってもいないで、ただ「好き嫌いなく食べる。あれば、分けてやることもある」ような日常を送っていたのが往生していたのだと、古井は言いたいのだろう。
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